「影を留めず」
「影を留めず」
風が起これば竹の葉は騒ぐが、吹きやめば
またもとの静寂にもどる。雁が渡るとき淵は
その影を映すが、飛び去ればもはや影を留
めない。
君子の心も、事が起こればそれに対応し、事
が過ぎればまたもとの静けさにもどるのである。
●「荘子」にこうある。
「至人の心は鏡のようなものである。過ぎ去った
ことにも遠い先のことにも思いわずらうことはなく
来るものはそのまま映し出すが、去ってしまえば
なんの痕跡も留めない。だから、どんなものにも
対応できて、しかも傷つけられることはまったくな
い」
「荘子」にはまた「明鏡止水」という有名なことば
もある。
「人は流水に鑑みるなくして、止水に鑑みる」
流れる水は鏡にならないが、静止した水はいっさ
いの姿を映し出す。この鏡と同じように、なにごと
も虚心に受け入れる境地を「明鏡止水」という。